項羽はなぜ曹無傷を裏切ったのか？

歴史に関する記事や本をいくつか読んだ。表面的な知識しかないが、ある信念が心に根付いている：

歴史に対する畏敬の念、歴史の人物への畏敬、真摯に歴史を記す者への畏敬。

張良を例に挙げよう。劉邦軍団が天下を平定し諸侯を分封した際、劉邦は張良に斉国の三万户の食邑を選ばせようとした。張良はこう答えた。

「最初に臣が下邳で挙兵し、陛下と留で出会ったのは天が臣を陛下に授けたからです。陛下が臣の策を用い、時流に乗ることができました。臣は留の封を受けるだけで十分で、三万户など到底受けられません」こうして張良は留侯に封じられた。（『留侯世家』）

以前は単純に「狡兎死して走狗烹らる」を知り、保身を図っただけと思っていた。だが司馬遷はしばしば人物の人生の断片を関連人物の列伝に分散させる。複数の列伝を読むと、張良の畏敬と感謝が理解できる。彼は天を畏れ、劉邦に感謝していた。劉邦がいなければ、彼は早くに命を落としていただろう。張良は始皇帝暗殺に失敗し下邳に潜伏。元々「留」に駐屯する秦嘉・景駒を頼るつもりが、途中で劉邦と意気投合しそのまま仕えることになった。

「景駒が留で楚の仮王を称した。張良は彼に従おうとしたが、道中で沛公（劉邦）に出会った。沛公は数千の兵を率いて下邳西を攻略中で、張良はその配下となった。沛公は張良を廄将に任命。張良が『太公兵法』を説くと、沛公はこれを理解し採用した。他人に話しても理解されず、張良は『沛公は天が授けた人物だ』と言って従った」（『留侯世家』）

もし張良が景駒に仕えていたら？項家軍の鉄蹄の下、秦嘉・景駒と共に乱箭に倒れていただろう。

「項梁が秦嘉を攻撃。秦嘉軍は敗走し胡陵で追撃され戦死。景駒は梁の地で逃亡中に死亡」（『項羽本紀』）

このような謙虚な姿勢で史書を読めば、自然と次の合意に至る：第一に劉邦・項羽らは人傑中の人傑であること、第二に『史記』の不合理な記述には太史公の深意があること。

項羽は決して「政治的音痴」ではない。楚の貴族の末裔として文武両道だった。『史記・項羽本紀』冒頭の紹介——「鼎を担ぐ力を持ち、才気人に勝る」。

具体例で項羽の深謀遠慮を検証しよう。

項羽の権謀術数
 

章邯降伏工作
 

鴻門宴の謎
 

兵力比較（前206年12月時点）
 

項羽が戦争回避を望んだ可能性を示唆する時系列：

秦二世3年8月（前207） 章邯降伏
↓
漢元年10月（前206） 劉邦咸陽入り
↓
漢元年12月 鴻門宴

この5ヶ月の空白期間に、項羽軍は食糧難に直面しつつ諸侯軍を統率。対する劉邦軍は咸陽の財宝で補給完了。項羽が「無血解決」を図ったのは、連合軍の統制が不安定なためと推測される。

「項伯が夜間往来」の不可解な行動も、実は項羽のシナリオ通りだった可能性がある。実際、鴻門宴後も項羽は劉邦に漢中を与え、自身は斉の地の平定に忙殺される。この間の行動から、項羽が「関中支配」より「諸侯統制」を優先していたことが窺える。