夏王朝には、その実在を証明する確固たる史料は存在するのでしょうか？

殷墟考古研究所所長の唐際根氏が最近の短編動画で述べた論述を踏まえ、私自身の見解を加えて以下のようにまとめる：

殷墟甲骨文には「西邑」という地名が頻繁に記録されている。商王朝の人々は自国を「大邑商」と呼んでおり、「邑」は大都市や大国を意味すると解釈できる。清華簡『尹誥』には「尹念天之敗西邑夏」とあり、伊尹が商を輔佐して西邑夏を打ち破ったことが記されている。このことから「西邑」とは夏王朝を指すことが明らかであり、これが夏王朝の存在を証明する最も直接的な文字史料となる。先秦時代において国家は複数の呼称を持つ場合が多く、例えば商は殷とも呼ばれ、曾國は随國とも称された。同様に夏王朝も二つの名称を持っていた可能性が高く、「夏」は夏王朝の自称、「西邑」は商王朝など他者が用いた呼称と考えられる。商が東夷地域に起源を持つため、西方に位置する夏を「西邑」と呼んだことは歴史記録とも符合する。

商王朝の歴史において5回の遷都が確認されているが、これに対応する考古遺跡がほぼ発見されている。これを夏王朝の歴史に対応させると、禹が陽城に、啓が陽翟に都したという記録があり、王城崗遺跡（禹都陽城説）、禹州瓦店遺跡（啓都陽翟説）、新砦遺跡、二里頭遺跡など、時期的・地理的に符合する考古学遺跡が確認されている。
 

相关遗迹信息表
 

商代都城の建築方向（約13度の北偏角）と二里頭遺跡を中心とする「夏」とされる遺跡群の建築方向（約6度の北偏角）が異なることから、両者が異なる文化系統に属することが示唆される。さらに二里頭遺跡周辺には商王朝が建設した複数の小規模城郭（鄭州商城・偃師商城など）が存在し、これは商が夏を滅ぼした後に遺民を監視するために城を築いたという記録と符合する。

西周時代の遂公盨などの青銅器に刻まれた「天命禹敷土、墮山濬川」の銘文は、大禹治水の伝承を具体的に記録しており、夏王朝創始者・禹の実在を裏付ける。唐氏の指摘する「西邑」に関しては、清華簡発表以前から甲骨文における「西邑」の記録（例：『甲骨文合集》7854「貞：西邑害我？」）に注目していた。商王朝が占卜で「西邑が商王に危害を及ぼすか」を問う記録は、両者の緊張関係を示しており、商が非道な手段で夏を滅ぼした可能性を示唆する。このため商王朝は自らの「偉業」を積極的に宣伝せず、むしろ夏の怨霊を恐れていたと考えられる。

歴史伝承との整合性として、商湯王が夏を滅ぼした直後に七年干魃が続き、湯王自ら桑林で雨乞いの犠牲になろうとした故事は、商王朝が自らの行為に道義的正当性を感じていなかったことを示唆する。夏王朝の実在性を否定する最大の根拠である「二里頭遺跡から夏を明示する文字史料が未発見」という点については、文字体系が未発達だった可能性が考えられる。南米のインカ帝国が文字を持たずとも高度な文明を築いた事例と同様、文字の有無だけで文明の存在を判断すべきではない。

ただし夏王朝の存在を巡っては重大な謎が残る。紀元前2600年から2000年にかけて栄えた龍山文化（蛋殻黒陶の技術水準は後継の岳石文化や二里頭文化を凌駕）が突然消滅し、より未発達な岳石文化に取って代わられた事実である。この現象を解釈するに、龍山文化の繁栄期（伝説上の炎黄～堯舜時代）には温暖な気候と民主的な禅譲制が存在したが、気候変動（BC2000年頃の小氷期）と乱伐による環境破壊が重なり、大規模な社会崩壊が発生した。辺縁地域にいた禹の集団が難民を吸収し治水事業を通じて新たな政権（夏王朝）を樹立したというのが、考古学的解釈における「大禹治水」の実像であろう。
 

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この文明興亡のサイクル（龍山文化500年→夏500年→商600年→周800年と次第に短期化）は、人口増加に伴う環境負荷増大が周期を短縮させるという「歴史周期率」を示している。中国の専制体制は、大規模治水事業などの公共工事を効率的に実施するために発展した制度という解釈も可能である。自然災害が頻発する地域では、強力な中央集権が生存に不可欠だったとの見方には説得力がある。