古代の深夜に「打更」を行っていた理由は？人々の睡眠を妨げなかったのでしょうか？

深更半夜、規則的な銅鑼と鈴の音が夜空を切り裂き、「天干物燥、小心火烛（空気は乾燥し、物は乾いている、火の元用心）」という呼びかけが路地裏に響き渡る。これは明清時代の町や村でよく見られた光景で、夜回り人が薄暗い通りを駆け巡っていた。西洋の使節団が中国を訪れた際、この半刻（1時間）ごとに鳴り響く夜回りの音に苦情を呈し、夜間の休息を著しく妨げると考えた。しかし時計のない時代において、この一見迷惑に思える職業は古人の知恵の結晶であり、単に時を告げるだけでなく、町の安寧を守り、火災予防などの重要な役割を担っていた。周代の「鶏人」から明清時代の「更夫」へと続く夜回り制度の変遷は、中国古代社会の独自の統治理念を映し出すとともに、現代社会の治安管理にも示唆を与えている。

中国古代社会において、時間の正確な把握は常に難題であった。現代の時計を持たない古人は、最初は鶏の鳴き声で時間を判断していた。周公旦が『周礼』で設立した「鶏人」という役職は、専ら鶏の鳴き声を観察して時を告げることを任務とし、中国古代の正式な時報制度確立の象徴となった。

社会の発展に伴い、人々は「更」で夜間の時間を区切るようになった。「鶏人」の呼称は次第に「更人」へと変化し、この呼び名は明清時代まで継承された。明代前期、都市部の夜回り任務は火夫が担当していた。これらの火夫は全て体力のある若年男性で、地方政府によって統一管理されていた。

管理を規範化するため、一般庶民は私的に火夫を雇うことができず、高官貴人でも役所に登録する必要があった。火夫たちは巡回する街道の規模に応じて等級分けされたが、必ず複数人で行動することが義務付けられた。農村部の夜回り人は「郷夫」と呼ばれ、主に地元村民が担当した。大所帯はより多くの人手を出す必要があり、一定の民主性が示されていた。

夜回り人の職務は銅鑼を打つだけではなかった。夜間外出禁止時分に街道を巡回し、松明を手にして不審な状況を監視する必要があった。各区域には2～3人の組長が配置され、該当区域の夜回り業務を統括管理した。1組は少なくとも6人で構成され、一部が時報を担当し、残りが夜間巡回に当たった。
 

五更制時間区分表
 

夜回り人は盗賊遭遇時に使用する特殊な太鼓信号を開発し、町の安全維持に重要な役割を果たした。明清時代には厳格な夜間外出禁止制度が実施され、夜間は夜回り人以外の一般庶民が外出するには夜行牌の所持が必須とされた。違反者と関係者は厳罰に処せられ、この厳格な夜間管理制度により深夜の外出者は極めて少なく、外出する場合も急病などの緊急事態に限られた。
 

夜回り人装備一覧
 

夜回り人は低い身分ながら、その業務は厳しく監督された。県官は抜き打ち検査を実施し、怠惰や規則違反を発見した場合は厳罰を科した。この一見単純な仕事は、古代社会の統治システムにおける重要な一翼を担い、時報提供だけでなく社会秩序の維持に大きく貢献していた。
 

夜間巡回管理データ（明代南京例）
 

西洋文明の流入により機械時計が普及すると、夜回り制度は次第に衰退した。19世紀末の大都市では時計台が建設され、警察制度の確立と街灯の普及が夜回り人の役割を代替していった。しかし農村部では新中国成立初期まで存続し、その伝統は「夜更かし」という言葉や芸術作品を通じて現代に継承されている。博物館に残された銅鑼や竹梆は、この消えた職業が中国社会に刻んだ深い軌跡を物語っている。