漢民族はなぜ「漢」族と呼ばれるのか、「秦」族や「唐」族ではない理由は？

社会学の観点から説明すると、漢朝は中国史上初めて政治的境界と文化的境界が重なり合ったため、領域内の人々が互いを共同体として想像し始めたことが理由です。

世界の民族の例を思い出してみてください：

スペイン人が自国領内の同胞を「スペイン人」と認識し始めたのはいつか？自分が属するより小さな行政実体の「レオン人」でも、より大きな宗教実体の「カトリック教徒」でもないと感じたのは、15-16世紀に近代国民国家の波がヨーロッパで芽生え始めた時期です。

ドイツ人やイタリア人が「バイエルン人」や「プロテスタント教徒」ではなく「ドイツ人」「イタリア人」と自覚したのは、19世紀の国家統一時でした。

トルコ人が「イスラム教徒」ではなく「トルコ人」と認識するようになったのは、19世紀にイェニチェリ（各種ゲームでおなじみの「スルタン親衛隊」）やベクタシュ教団といった封建勢力・保守宗教勢力を鎮圧してからのことです。

エジプト人が「エジプト人」という自覚を持ち始めたのも、19世紀にムハンマド・アリーがマムルーク封建勢力を排除した後のことでした。
 

これらの自己認識が発生する前の人々は、国境を越えた階層的に類似した人々を同胞と認識しがちでした。ドイツ語を母語とする純粋なドイツ人がイギリス（ジョージ1世）やロシア（エカチェリーナ女帝）の君主になることに何の違和感もなく、エジプト貴族がクルド人（サラディン）やモンゴル人（アディール・ケテブカ、マムルーク朝第10代スルタン）を指導者として擁立することに異議を唱えなかったのもそのためです。

ではこれらの民族意識はどの歴史段階で発生したのでしょうか？中央集権が強化され、封建制度と宗教保守勢力が衰退し始めた時期に集中しています。

封建制度は国家領域内に小さな政治的境界を多数存在させます。これらの境界内の人々は、同じ国家内の他の封建領の人々より先に、自分の所属する領地の人々を共同体と認識します。

宗教保守勢力は国家領域外に、政治的影響力を持つ大きな文化的境界を作り出します。この境界内の人々は、同じ国家内の異なる宗教を信仰する人々より先に、他国の同じ宗教を信仰する人々を同胞と認識します。

中央集権が発展して封建勢力と宗教勢力を抑圧することで初めて、政治的境界と文化的境界が一致します。国民は同じ国境内の同胞を優先的に共同体として認識するようになるのです。

この論理を理解すれば、漢民族が「秦人」や「唐人」ではなく「漢人」として自覚する理由がわかります。

中国では宗教保守勢力は商周易代の際に既に排除されていました。商代には武乙のような祭司階級と権力を争う君主がいましたが、周朝成立後は文化権力と行政権力が高度に一致しました。

しかし封建勢力への徹底的な抑圧が初めて実現したのは漢朝でした。

封建制度を採用した周朝は言うまでもなく、秦朝は短い統一期間中に六国の封建勢力残党を鎮圧できませんでした。始皇帝の死後、瞬く間に六国復興運動が勃発したのです。

漢朝成立後、劉邦が異姓王を排除し、七国の乱を鎮圧しました。その後、封建勢力が中央の権威に挑戦することは困難になりました。中央集権下で流動する官僚、遠方駐屯の軍隊、商業活動により、人々が帝国領域内の異なる地域の人々と接触する機会が大幅に増加しました。長い時を経て、漢朝の国民は自らと幽州、雍州、益州、揚州の人々が同じ「漢人」であることを認識するようになったのです。

これこそが、漢人が漢朝から版図内の同胞を共同体として想像し、「漢族」という名称でこの共同体を定義し、民族記憶を形成した根本的な理由です。