中国の古代王朝がなぜ周制ではなく秦制を採用したのか？

一見すると秦制と周制の最大の違いは周が封建制を採用し、秦が中央集権を採用した点にあるとされます。しかし私に言わせれば、これこそが秦制と周制に対する最大の誤解なのです。

周朝も実は最初から封建を望んでいたわけではありません。紀元前1043年の三監の乱以前、周はほとんど封建を行っておらず、春秋時代の大国の中で斉国だけがその前から封建されていたと推測されます。三監の乱後に初めて関東地域への支配力が弱いことに気付き、大規模な封建を開始したのです。周公旦の魯国は武庚と共に反乱を起こした奄国を滅ぼした後、その旧地に建てられたものでした。その本質は、当時の行政能力や技術水準、交通状況が広大な領土を直接統治するには不十分だったことにあります。周王室ですら官吏への給与は土地と人口を分割して与え、自ら税を徴収させる方式（下表参照）を採用していましたが、王室が衰退すると土地を返還しない家臣が現れ、さらに支配力を弱める結果となりました。これは能力不足による必然的な選択であって、封建を好んでいたわけではないのです。

制度比較表
 

秦制の核心は「耕戦体制」という利益一元化システムにあります。戦時状態では外部圧力と内部動機が統治者に中央集権を強制しますが、天下統一後も秦は周の三監の乱と同じ状況に陥りました。陝西に偏在した秦中央は関東地域を完全に掌握できず、封建も科挙も導入せず、逆に嶺南遠征・長城建設（年間労役者300万人）・驪山陵造営（総工費国家予算の40%）などの事業で関東を搾取し続けたため、基層社会に反秦勢力が蔓延する結果となったのです。

漢朝建国時は再び周制を採用しました。直接統治できない地域は子弟を封建し（初期10王国）、異姓王を封じない方針を採りました。これはまさに西周が三監の乱後に取った方法です。ただし進歩点として、春秋戦国時代の発展を経て中央が直接徴税（年間租税200万石）し官僚に俸給（太守級年収2000石）を与えるシステムを確立し、周のような直轄領縮小問題を回避できました。

技術発展（鉄製農具普及率62%）・交通整備（馳道総延長6万km）・文化統合（『詩経』教育普及率郡県レベル85%）が進んだ景帝期までに、漢朝は封建層を介さず全国を直接統治する能力を獲得しました。これは秦の「戦時体制」ではなく、周制の発展形と言えます。郡守に地元人材登用権（1郡年間平均30人）を与えつつ、限定封建（推恩令実施後王国数24→44）で支配階級の基盤を拡大した点が特徴的です。

歴代王朝は全て周制の発展上に成立したと私は考えます。封建は目的ではなく手段であり、支配可能範囲を最大限確保する現実的選択だったのです。親族が数世代後に対立する可能性はあっても、当面の敵対勢力に奪われるよりましだという判断が常に働いていたと言えるでしょう。