古代人はなぜ猫を食べなかったのか？

世界でどの国の人が最も食に精通しているかといえば、間違いなく中国でしょう。5000年の歴史の中で、古人は数多くの美食レシピを残してきました。特に古代の皇帝たちは、優れた料理スキルを身につけることが御用料理人になる基本条件でした。鶏・アヒル・魚・肉に対する古人の研究は、現代人に決して引けを取らないものです。

しかし歴史を振り返ると、なぜ猫肉に関する記録がないのでしょうか？犬と猫は共に人間に飼われているペットですが、敏捷で機敏な猫がなぜ食文化の一部にならなかったのか？この疑問に対して李時珍は独自の見解を示しています。
 

猫と中国の関わり

中華田園犬（チャイニーズ・ルーラルドッグ）の話をする時、祖先の審美眼には感心させられます。しかし近年では「大黄」のような純粋種はほとんど見かけず、雑種の番犬がかろうじて門番を務めている状況です。

一方、猫の歴史はより複雑です。この生物は中国原産ではなく、考古学的には前漢時代に西域から伝来したと推測されています。武帝が張騫を西域に派遣した際、ネズミ捕りをする猫を目にした記録が残っています。当時の人々にとって最大の悩みは鼠害でした。食料を盗み、寄生虫のような繁殖力を持つネズミに対し、犬もネズミを捕まえますが、当時は全ての家庭で犬を飼える余裕がなかったのです。
 

食べられなかった本当の理由

古人が猫肉を避けた理由には、迷信的な要素が大きく関わっていました。黒猫は「玄猫」と呼ばれ縁起物とされ、西洋とは異なり邪気を払う存在と考えられていました。さらに「猫は霊界と交信できる」「死臭を感知する」などの伝承が広まり、棺桶に猫が近づくと「屍変（死体が動き出す）」が起きると信じられていたのです。

しかし李時珍は『本草綱目』でより現実的な指摘をしています：
 

現代人の選択

調理技術が発達した現代でも、猫肉料理が普及しない理由は明白です。豚・鶏・牛・魚など、扱いやすく美味な食材が豊富にあるため、わざわざ手間のかかる猫肉を選ぶ必要性がありません。さらに現代ではペットとしての地位が確立され、食用としての価値はほぼ消失しています。
 

歴史を振り返ると、各時代の食文化はその時の社会状況を反映しています。古代中国で猫が「生きた害虫駆除装置」として重宝されたように、現代では「心の癒し」としての役割を担っているのです。食材としての価値よりも、人間とのかけがえのない関係性が、猫を食卓から遠ざけた真の理由と言えるでしょう。