范進は郷試合格後、なぜ突然発狂したのか？

范進が科挙に合格した物語は『儒林外史』から来ており、書中の范進は典型的な儒生の姿をしている。一家は非常に貧しく、しばしば満足に食事を取れない状況だったが、家の労働力である范進はひたすら試験に没頭していた。残念ながら天は人の意に従わず、毎年受験しては落第し、20代から50代まで30年以上も受験を続けた。この粘り強さは他に例を見ないと言えるだろう。

54歳の時、運命が急転し范進は挙人に合格。あまりの喜びに正気を失ったが、義父の胡屠夫が酒の勢いで平手打ちして正気に戻した。多くの人は「ただの挙人ではないか？ 狂喜する必要があるのか？」と不思議に思うが、当時の社会状況を理解する必要がある。

当時、挙人合格は誰もが憧れる夢であった。一生かかっても秀才止まりの者も多く、挙人の価値は極めて高かった。范進が得た地位を現代に換算すれば、誰もが彼以上の興奮を示すかもしれない。
 

【范進の人生変遷データ】
 

幼少期に父を失った范進は母の苦労で学問を続けた。私塾では非凡な才能を示し教師の期待を集めたが、貧困のため度々受験機会を逃した。40代でやっと娶った妻は地元の肉屋の醜い娘で、周囲から嘲笑されながらも科挙への執念を捨てなかった。

合格発表日、范進は空腹を凌ぐため老母鶏を売りに出ていた。突然の合格通知に最初は信じられず、公式文書を目にした瞬間「当選した！本当に当選した！」と狂乱状態に。この異常な反応は、30年間の屈辱と圧迫からの解放感が引き起こしたものだった。

当時の階級制度下で、平民が身分を変える唯一の方法が科挙だった。合格者は税免除・労役免除特権を得て、一瞬で地主階級に躍り出る。范進の場合、合格直後に銀50両（現代換算約500万円）と邸宅を寄贈され、社会的地位が激変した。
 

現代における范進の役職：
 

最初の任官：県令（県知事相当）

進士合格後：御史（中央監察官・国家公務員監査官相当）

最終地位：山東省学政（省教育庁長+大学入試管理庁長官）

この物語は科挙制度の光と影を浮き彫りにする。1つの試験が人生を決定し、社会的地位を激変させるシステムが、個人の人生を歪め社会全体に歪みをもたらした事実を、范進の半狂乱の姿を通して痛烈に諷刺している。合格の瞬間を境に、嘲笑の対象が一転して権力者へ変貌する様は、現代の学歴社会にも通じる問題を提示している。