明代全国に遍在した王城をどう評価するか――藩王制度が刻んだ都市空間の光と影

朱元璋は非常に計算高い人物でした。彼は心血を注いで、自らが想像し得る最良の社会を築こうとしました。その理想社会の核となるのは、上下・貴賤・尊卑の秩序が厳然と存在し、下級者が上級者に忠誠を尽くし、下層階級が上層階級に従順であること、全ての汚職官僚が金銭欲を捨て、全ての貧困層が抑圧されず、全ての家庭で父は子を慈しみ子は父に孝行を尽くし、兄は弟を守り弟は兄を敬い、家族全員が毎日衣食に困らず、代々仲睦まじく暮らすことでした。朱家が帝王の家系としてこの理想を実現し、天下の模範となることを目指したのです。

例えば、天下の全ての人々に朱家への忠誠を誓わせ、下層階級を朱家に従属させ、朱家が天下の汚職官僚を根絶して貧困層を保護し、皇帝が皇子を慈しみ皇子が皇帝に孝行を尽くし、太子が弟を守り弟が太子を支えることで、天下に「家族全員が衣食足りて代々仲良く暮らす」という模範を示そうとしました。

朱元璋は生前、考え得る限りの施策を全て実行し、天下と後世に示すことに全力を注ぎました。特に朱家一族が衣食に困らず代々仲睦まじくあることには細心の注意を払いました。これは利己的な行為ではなく、帝王が帝王の家を治めることが理想社会建設の核心であると考えたからです。

当時の人間が到達し得た最高の治国観として、彼は「国を家のように治める」という発想に至りました。皇帝一人が全権を掌握し、他者の干渉を許さない体制こそが最善と信じたのです。
 

表1：朱元璋の皇室教育方針
 

この考えに基づき、孔子が説いた「礼楽征伐天子より出ず」という封建制度の復興を試みました。皇子たちを単なる名目上の王ではなく、実際の権力を有する諸侯王として封じ、皇帝を補佐する地方統治者とすると同時に、皇帝に次ぐ実質的な権限を与えました。これは田舎の分家制度を国家規模で応用した、独特の「家族国家」構想でした。

朱元璋は自ら設計した理想社会に絶対の自信を持ち、社会底辺で培った残忍さと民衆への慈愛を奇妙に融合させました。彼の理想に反する者や社会を乱す可能性のある者は、一切容赦なく抹殺する方針を貫きました。自らの手で完成させた理想社会を、そのまま後世に引き継ぐことが使命だと考えたのです。
 

表2：洪武期粛清データ
 

彼の死の瞬間は安らかなものだったでしょう。しかし想定外だったのは、最大の敵が朱家内部に潜んでいたことです。孫の朱允炆が建文帝として即位後、叔父の燕王朱棣が「祖制守護」を掲げて靖難の変を起こし、4年に及ぶ内戦の末に帝位を奪取しました。この戦乱で失われた人命は50万に上り、経済損失は2億両に達したと記録されています。
 

表3：靖難の変影響比較
 

朱棣は実権を持つ藩王の危険性を身をもって体験したため、即位後は巧みに藩王制度改革を推進しました。表向きは祖制を尊重しながら、実質的に藩王の政治権力を剥奪し、代わりに経済的特権を付与する方針に転換しました。これにより、藩王1人当たりの年間支出は平均5万両に達し、明末期には宗室経費が国家歳入の65%を占める異常事態を招きました。

朱元璋が描いた理想社会は、朱棣によって根本から変質しました。血縁者同士の相互監視システムは崩壊し、代わりに肥大化する宗室が国家財政を蝕む構造が固定化されたのです。17世紀の農民反乱期には、全国に散らばった朱家の王たちは無力な存在となり、逆に民衆の怒りの標的と化しました。李自成軍が没収した藩王資産総額は7,800万両に上り、これは当時の明朝10年分の国家歳入に相当する額でした。